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神戸地方裁判所 昭和31年(ヲ)364号 決定 1957年4月09日

申立人 平井信石

相手方 有本恵美子 外四名

主文

相手方有本恵美子及び同株式会社有本洋反物店は、別紙目録表示(1) の建物中階下部分、相手方藤本喜代子及び同有限会社藤倉商店は、右目録表示(2) の建物中階下部分、相手方共進産業株式会社は、右目録表示(3) の建物中階下部分をそれぞれ申立人に引き渡さなければならない。

事実

申立代理人は、主文と同趣旨の不動産引渡命令を求める旨申し立て、

申立の理由として、次のように述べた。

「一、申立人は、昭和三十年六月三十日、債権者島谷常次郎、債務者中山清市間の神戸地方裁判所昭和二十八年(ヌ)第八九号不動産強制競売事件において、右債務者所有にかかる「神戸市兵庫区東山町一丁目六番の四地上、家屋番号五十二番、木造瓦葺二階建料理店一棟、建坪二十三坪八合一勺、外二階坪二十二坪一合二勺」につき競落許可決定を受けたところ、右債務者中山清市において、昭和三十年七月一日これを不服として大阪高等裁判所に即時抗告を申し立てたが、昭和三十一年五月二日右抗告を取り下げたため、同日をもつて前記競落許可決定が確定し、申立人は、民事訴訟法第六百八十六条により右競落不動産の所有権を取得し、競落代金百万円を完納した。

しかるに、債務者中山清市は右抗告審に係属中である昭和三十年八月二日右建物を三戸に分割して相手方有本恵美子、同藤本喜代子、同共進産業株式会社にそれぞれ売渡すことを約し、同年八月十六日附をもつて、末尾添附別紙目録表示のように(1) 乃至(3) の三戸に分割登記をした上、右各売買を原因として、同月十八日受附で相手方有本恵美子に対し、右(1) の建物につき、同藤本喜代子に対し、(2) の建物につき、同月二十五日受附で同共進産業株式会社に対し、(3) の建物につきそれぞれ所有権移転登記がなされ、現に右相手方三名は、各自の所有名義建物の各階下部分を占有している。次に、相手方株式会社有本洋反物店は、前掲強制競売手続開始後の昭和三十年五月十二日設立され、同日以降右(1) の建物中階下部分に本店を置いて営業を開始するに及び、相手方等が賃借人と称する有本義雄に替り同建物を占有することとなつたものであるが、当時の所有者たる中山清市において、右会社設立の事実を知らなかつたし、有本義雄がこの会社に右建物を転貸その他の名目で使用されることを承諾したこともないのである。また、相手方有限会社藤倉商店は、昭和三十一年四月二十三日設立され、同日以降右(2) の建物中階下部分に本店を置いて営業をしているところの、相手方藤本喜代子の承継人である。

これを要するに、相手方五名は、いずれも競落人たる申立人に対抗し得ない本件各競落不動産の不法占有者といわなければならない。よつて、民事訴訟法第六百八十七条にしたがい、申立の趣旨掲記のとおり相手方等各自の占有にかかる不動産の引渡命令を求める次第である。

二 前記強制競売手続は、神戸地方裁判所昭和三十一年(モ)第七〇六号事件の同年六月二十九日附決定において、これを停止する旨宣言されているが、右強制執行停止決定の存在は、本件において申立人がその競落不動産の引渡命令を求めるのに、何等障碍となるものではない。その理由は、次のとおりである。

まず第一に、申立人の得た競落許可決定は、右強制執行停止決定がなされる前の昭和三十一年五月二日、即時抗告の取下により確定しているのであつて、同日以降民事訴訟法第六百七十二条所定の事由をもつて申立人の権利を阻むことはできないのであるから、この段階をもつて本件強制競売手続は、少くとも競落人たる申立人との関係において相対的ではあるが完了しているといつてよい。かように、強制執行手続が完了した後に発せられた強制執行停止決定が意味のないものであることは、いうをまたないところである。

また、前記強制執行停止決定は、相手方有本恵美子、同藤本喜代子及び同共進産業株式会社が、債務者中山清市に代位し、債権者島谷常次郎を被告として提起した神戸地方裁判所昭和三十年(ワ)第五三八号請求異議訴訟事件に附随して、民事訴訟法第五百四十七条により発せられたものであるが、申立人は、それより前に前掲競落許可決定の確定をもつて本件不動産の所有権を取得したのであるから、競売法第二十三条、第三十三条、民事訴訟法第六百八十六条の類推により、前記請求異議訴訟は、競落人たる申立人をも被告に加えた固有必要的共同訴訟でなければならない。それ故、申立人を被告から除外した右請求異議の訴は、不適法として却下を免れぬものであるから、これに附随して発せられた前掲強制執行停止決定も、不当な決定である。かりに右請求異議訴訟が固有必要的共同訴訟でないとしても、民事訴訟法の規定により本件不動産の所有者となつた申立人に、右強制執行停止決定の効力が及ぶ筈がない。

なお、本件強制競売については、債務者中山は、一旦競落許可決定に対し即時抗告を申し立てながら、その後右抗告を取り下げているので、もはや民事訴訟法第六百七十二条第一号の事由に基く異議を申し立てることはできないのであるから、右相手方三名が同債務者に代位し、同じ事由を構えて提起した請求異議訴訟が、法律上許されないのは当然である。かような点からしても、前記強制執行停止決定は、不当な決定といわなければならない。

更に、民事訴訟法第五百五十一条は、本件のような同法第五百五十条第二号の場合においては、「既ニ為シタル執行処分ヲ一時保持セシム可」きものと規定しているのであつて、その趣旨からいつても、右強制執行停止決定の存在は、本件申立の障碍とならぬものと解すべきである。」

相手方等代理人は、「本件各不動産引渡命令の申立を却下する。」

との決定を求め、

申立人の主張に答えて、次のように述べた。

「一 申立人主張にかかる不動産強制競売事件において、申立人が、昭和三十年六月三十日その主張の建物につき競落許可決定を受け、その主張どおりの過程を経て右決定の確定をみたこと、その後申立人がその競落代金の全額を支払つたこと。同競落許可決定に対する抗告事件が大阪高等裁判所に係属中、申立人主張の日に前記競落不動産は、末尾添附別紙目録表示(1) 乃至(3) の三戸に分割登記され、かつ、右強制競売事件の債務者である中山清市から、申立人主張の受附日附をもつて右(1) の建物については相手方有本恵美子に、(2) の建物については同藤本喜代子に、(3) の建物については同共進産業株式会社に、それぞれ売買を原因とする所有権移転登記がなされたこと、同相手方会社は、右(3) の建物中階下部分に、相手方株式会社有本洋反物店は、(1) の建物中階下部分に、同有限会社藤倉商店は、(2) の建物中階下部分に、それぞれ店舗を構えていることは、いずれもこれを認める。

二 しかしながら、本件各不動産引渡命令の申立は、基本たる前掲不動産強制競売手続を停止すべき期間中にかかるものであるから、既にこの点において失当である。

右強制競売事件において、債権者代理人淡路健治作成にかかる請求債権額及び手続費用の弁済を受けた旨の記載のある民事訴訟法第五百五十条第四号に該当する昭和三十一年六月十九日附「御届」と題する書面が、同年六月二十日裁判所に提出されており、また右強制競売手続について同月二十九日強制執行停止決定がなされ、その正本が執行裁判所に提出されていることも、記録上明らかである。したがつて、執行裁判所は、同法第五百五十一条により、既往の執行処分を一時保持するのは格別、右競売手続内においてあらたな執行処分をすることは、法律上許されない。それ故、執行裁判所がさきに申立人から競落代金を受け取つたのも、誤りであり、また、元来同法第六百八十七条に基く引渡命令は、申立権者が債権者又は競落人であることからも明らかなように、当該不動産強制競売手続内において競売終了の方法として認められた執行処分であるから(大審院昭和七年十月四日決定・民集第十一巻一八九七頁参照)、右代金の完納があつたことを前提とする本件各引渡命令の申立も、前述のとおり基本たる強制競売手続を停止すべき時期になされている限り、失当であるといわなければならない。

申立人は、競落許可決定の形式的確定により競落人たる申立人との関係において相対的に強制競売手続が終了したと強弁するが、かかる相対的終了なる概念は、法の認めるところではない。つまり、不動産強制競売手続の一環として競落不動産の引渡が行われても、他に配当手続が残つている以上強制競売手続が完了したとはいえず、したがつて、競売手続の停止に伴い競落不動産引渡命令の執行処分もすることができないと解するのが相当である。また、申立人は、競落許可決定の形式的確定に基く競落人の所有権取得が、基本たる強制競売手続とは無関係に不可不動であるという前提を想定しているもののようであるが、競落許可決定の形式的確定は、必ずしも所有権移転の実質的確定を意味するものでなく、基本たる強制競売手続の当不当が競落人の所有権取得の成否に影響を及ぼす場合も、皆無とはいえないのである。例えば、強制競売といえども競売法による競売と等しく権利実行の方法に外ならないから、競売手続完了前に競売の基本たる債権の弁済があれば、それ以後競売手続は、これを続行してはならないのであつて、かりに競落許可決定が確定しても、これにより競落人は所有権を取得しないというのが判例である(大審院明治四十五年三月十三日、同昭和三年六月二十八日、同昭和十一年七月十七日各言渡判決)。本件不動産強制競売手続は、債務名義に基く強制執行の形式をとつているが、債権者は、同時に基本債権につき本件不動産上に抵当権をも有するから、強制執行は、抵当権実行たる性格をも具有するところ(大審院昭和二年十一月十一日言渡判決参照)、競売法による競売手続にあつても、競落許可決定の前後を問わず当該競売手続の完了前に競売の基本たる債権の弁済があれば、競落人は、所有権を取得し得ないものと解されている(大審院昭和二年十一月十九日決定参照)。また、第三者が競売不動産の所有者であるとして第三者異議の訴を提起し、同時に強制執行停止決定を得てその正本を執行裁判所に提出した場合を想定すると、競落許可決定が形式的に確定したからとて、競落人に対する関係においてのみ手続を進行することが不合理なのは、極めて明白である。

元来民事訴訟法において裁判機関と執行機関とを峻別したゆえんのものは、執行手続は、権利関係の終局的確定を目的とする判決手続より一層簡易迅速に処理するを相当とするからであり、したがつて、執行機関は、強制執行停止決定の正本の提出を受けた以上、その停止決定の本案である裁判の結果が、競落許可決定に基く競落人の所有権取得の成否に影響を及ぼすかどうかなど、本案の内容について判断するまでもなく、その後一切の執行処分をすべきではないのである。執行機関には、執行裁判所のみならず執行吏もあるからこれらのものに強制執行停止決定の内容につき、そのような困難な判断を強いるのは、法の趣旨ではないし、また、執行機関が本案訴訟における当事者双方の主張、証拠まで検討するがごときは、明らかにその権限を超えたものといわなければならない。そうすると、本件不動産引渡命令申立の基本となつている強制競売手続が停止すべきものである以上、競落許可決定が形式上確定していると否とを問うことなく、右競売手続内における執行処分たる引渡命令は、これを発することができないものと断ずべきである。

三 右の点はしばらくおくとしても、申立人の求める不動産引渡命令を本件の相手方五名に対して発することは、法の明文に違反する。

民事訴訟法第六百八十七条第三項は、「債務者カ引渡ヲ拒ミタルトキハ競落人若クハ債権者ノ申立ニ因リ裁判所ハ執行吏ヲシテ債務者ノ占有ヲ解キ其不動産ヲ管理人ニ引渡サシム可シ」と規定しており、その明文上引渡命令を発し得べき相手方は、物件を占有する「債務者」又は「所有者(物上保証人、第三取得者)」に限られると解しなければならない。元来不動産の明渡乃至引渡を受けるには相手方にも主張、立証の充分な機会を与えるため必要的口頭弁論を経て、勝訴の判決を得て執行に移るのが原則であるところ、執行事件に関する裁判手続にあつては、証拠の提出は疎明をもつてするというのが実務上の取扱であるから、前記法条は、あくまでも例外規定であつて、条理上厳格に解釈するを相当とする。また、既に明確な債務名義の存する場合にあつても、執行文を付与し得るのは、承継が裁判所に明白なとき、又は証明書をもつてこれを証する場合に限られ(民事訴訟法第五百十九条)、必要な証明をなすことが不可能のときは、執行文付与の訴を提起せねばならぬことになつている(同法第五百二十一条)のであるから、かような規定もない以上、執行裁判所に明白な債務者乃至所有者に対してのみ、引渡命令という簡易な執行処分を認めたものと解すべきであつて、債務名義の存する場合以上に執行債権者を保護すべき理由はない。東京高等裁判所昭和二十八年一月十九日決定(判例タイムス三一号七二頁登載)は、「引渡命令は、債務者又は債務者に非ざる所有者(物上保証人、第三取得者)が右不動産の引渡を拒んだ場合に、競売手続終了の方法として発せられるものと解すべきところ、抵当権設定者の夫なるものは、そのいずれにも該当しないこと明らかであるから、同人に対しては引渡命令を発し得ぬ。」と判示しているが、民事訴訟法第六百八十七条の趣旨にそつた適切な解釈と評すべきである。

してみると、本件の相手方五名が、右法条の要件を具える占有者でないことは、明らかであるから、これに対する本件引渡命令の申立は、既にこの点において失当であるといわざるを得ない。

四 かりに債務者の承継人に対して引渡命令を発し得る場合を認めるとしても、およそ承継人に対する執行は、債務名義が形成された後初めて起り得る問題であつて、債務名義の形成以前の承継ということは、論じ得べき限りでない。元来、金銭以外の物の給付を命ずる判決の執行を保全するためには仮処分の手段があり、不動産引渡命令の執行を保全するためには、民事訴訟法第六百八十七条第二項の管理命令によるべきであるが、もし引渡命令発付前に遡及して占有の承継を論ずるとすれば、右管理命令に関する規定は、全く無用のものといわざるを得ないであろう。したがつて、未だ引渡命令が債務者に対して発せられていない以上、それ以前より本件各不動産を占有する相手方等に対する本件引渡命令の申立は、理由のないものと断ずべきである。

五 かりに債務者に対する引渡命令の発布前に、その承継人を相手方とする引渡命令を求めることが許されるとしても、本件の相手方五名は、第一に債務者から占有を承継したものでないし、また、相手方三会社については、その占有開始の時期の点から考えても、申立人の求める引渡命令の相手方たるに適しないものと考えられる。

(一) まず債務者の承継人に対し引渡命令を発し得るとしても、それは、あくまで債務者から占有を承継した者を相手方とする場合に限るべきであり、たとえ不法占有者であつても、債務者の占有承継人でない限り、これに対し引渡命令を発し得ぬことは、判例、通説の示すところである(大審院昭和十二年四月二十三日判決、兼子一著・「強制執行法」二五五頁)。申立人は、本件の相手方等が無権原の占有者であるというが、右は、通常の訴訟においてなら格別、引渡命令申立の前提たる主張としてはそれ自体採用に値しないものといわなければならない。しかるに、本件相手方等は、左に詳述するとおりいずれも申立人の競落不動産について独立の占有者たる地位になく、いわんや債務者中村清市からその占有を承継したものではないから、この点からしても本件不動産引渡命令の申立は、失当である。

すなわち、別紙目録表示(1) の建物中階下部分は、申立外有本義雄が、同(2) の建物中階下部分は、申立外藤本茂が、いずれも本件強制競売手続開始前の昭和二十六年四月一日、当時の所有者である中山清市に敷金二十万円を支払い、同人から賃料月額金五千円(後に金八千円、更に金一万二千円に値上)、毎月末取立払の約束で賃借し、それぞれ洋反物販売の店舗として使用しているものであり、また、同(3) の建物中階下部分も、申立外小川建治が、やはり昭和二十六年四月一日同所有者から右同様の賃料の約束で賃借し、当初は単独で、後には右賃貸人の同意を得て他の数名と共同し、ここでゴム製品販売の店舗を開いているものであつて、これらの事実関係は、現在でも変りがないのである。相手方有本恵美子は、右有本義雄の妻、相手方藤本喜代子は、藤本茂の妻に外ならず、いずれも夫の個人営業の補助者にすぎない。また、他の相手方三名も、法人を装つてはいるが、その実右有本義雄なり、藤本茂なり、小川建治等なりの主宰する個人企業にすぎず、同人等の経営の実体は、これらの会社が設立されたからといつて、何等従前と変るところがないのである。すなわち、株式会社有本洋反物店は、有本義雄が租税負担軽減の目的で、実父有本米吉その他の者を役員とし、これらの者の印鑑を適宜使用して、書面上発起設立の手続を経たもののように装い、設立登記手続をしたものであるが、創立総会なども招集したことはないし、株金の払込も右義雄以外にした者はなく、設立後も株主総会や取締役会などは一回も招集しておらず、同人以外の役員や株主は、あれどもなきがごときものである。また、相手方有限会社藤倉商店は、藤本茂が、前同様の目的と同人の個人債務を回避する意図に基き、司法書士竹中重治に依頼し、社員の出資などは全然なかつたのに、社員の氏名や出資口数を適宜定款に記載し、右司法書士方の事務員まで監査役に加え、法律上必要な手続を経由したもののように装い設立登記手続に及んだものであつて、右茂以外の役員や社員は、営業の実態は勿論、自己の出資口数すら知らぬものである。最後に、相手方共進産業株式会社は、既に事実上廃業し登記簿上存在するだけのものであつたが、小川建治が、自己の多額の負債を回避するため、その本店を別紙目録表示(3) の家屋中階下部分に移転し、同所で従来から他の数名と共同経営していたゴム製品販売業を、会社経営の外観を呈するように作為したものにすぎないのである。

もつとも、別紙目録表示(1) 、(2) 及び(3) の各建物について、それぞれ相手方有本恵美子、同藤本喜代子及び同共進産業株式会社のため、いずれも債務者中山清市との間の売買を原因とする所有権移転登記がなされていることは、前述のとおりであるが、この事実とても決して右相手方三名が同債務者から承継した所有権に基いてこれらの建物を独立に占有していることを意味するものでない。すなわち、右中山清市は、自己の所有建物が競売に附され、遂に申立人が前記競落許可決定の言渡を受けるに及んで、これに対して大阪高等裁判所に即時抗告を申し立て、事件が抗告審に係属中に競売申立債権者に対する債務金七十万円を弁済することにより、右競落許可決定の取消を得ようと企て、右弁済資金の調達を同競落建物の賃借人たる有本義雄、藤本茂、小川建治等に懇願した結果、右賃借人等もこれを諒とし、中山に対し賃料前渡金をも含めて合計金九十万円を融通すると共に、各自の賃借建物につき、中山との間に本件強制競売手続が取下又は取消になることを停止条件とする売買の予約を締結し、かつ右予約上の権利を確保するため、便宜上その妻や主宰会社名義に所有権移転登記を経由したまでである。しかも、その後中山は、不信にも右賃借人等に無断で前示即時抗告を取り下げ、本件競落許可決定を確定させる一方、弁済供託金の取戻を図り、右停止条件成就の見込を失わせたものである。したがつて前記各所有権移転登記は、何等真実の権利関係の変動を表示しているものではない。

かような次第で、右有本義雄、藤本茂及び小川建治等は、今なお賃借権に基いて本件各競落建物を占有しており、かつ右賃借権は、もとより競落人たる申立人にも対抗し得るものである。そして、相手方五名は、いずれもこれら賃借権者に従属して右各建物を使用しているものにすぎないから、もとよりこれを申立人に引き渡さねばならぬいわれはない。

(二) 更に、相手方三会社が、その占有開始の時期からして申立人の求める引渡命令の相手方たるに適しないという根拠は、次のとおりである。

相手方三会社は、いずれも前記申立外有本義雄、同藤本茂及び同小川建治等の昭和二十六年四月来の賃借権に基く占有の範囲内で、これに従属し占有するものであることは、前述のとおりであり、かりにこれらの賃借権者から占有を承継したと考える余地があるとしても、それは、単に実体法上企業形態を個人経営から会社組織に変更したものにすぎず、引渡命令申立手続の関係においては一体として考えるのが相当である。ひつきよう、相手方三会社は、競売手続開始前の昭和二十六年四月当時より本件各不動産を占有していたことに帰するから、これに対し引渡命令を求め得ぬことは、明瞭である。

かりにそうでないとしても、相手方株式会社有本洋反物店に関する限り、同会社は、本件競落許可決定前の昭和三十年五月十二日に設立されたので、遅くとも同日前主から占有を承継したものというべきであるから、これに対し引渡命令を求めることは、失当である。

六 かりに以上の相手方等の主張が理由のないものであり、競落人は、その所有権に対抗し得る権原のないすべての不法占有者に対し引渡命令を求め得るという前提に立脚し、かつ、本件競落不動産について、有本義雄と相手方有本恵美子及び同株式会社有本洋反物店の間、藤本茂と相手方藤本喜代子及び同有限会社藤倉商店の間、更に小川建治等と相手方共進産業株式会社の間に占有の承継関係が認められるとしても、右承継は、転貸若くは賃借権の譲渡に基くものという外はないが、この転貸若くは賃借権の譲渡が賃貸人中山清市の承継人たる申立人に対抗し得ないものであるというためには、そこに民法第六百十二条第二項に基く解除権発生の要件を具えるだけの違法性が存在していることを必要とする。しかしながら、右転貸若くは賃借権の譲渡は、事業経営上の便宜のため、個人の事業を、その個人が主宰する法人の事業に、或は夫が営業主体を形式上妻名義に、又は個人名義の共同事業を法人組織に改めただけのものであつて、決して賃貸借当事者の意思に反するものではないから、たとえその都度賃貸人の承諾を得ていなくても、その違法性は、阻却されるものというべきである。したがつて、かような点を無視してなされた本件不動産引渡命令の申立は、理由がないものといわなければならない。」

申立代理人は、右相手方等の主張を反駁し、かつ、自己の申立理由を補足して、次のように陳述した。

「一 申立外有本義雄において別紙目録表示(1) の建物の、申立外藤本茂において同(2) の建物の、申立外小川建治において同(3) の建物の各階下部分を執行債務者中山清市からそれぞれ賃借中であるという相手方等の主張事実は、これを争う。そして、かりにこれらの賃貸借関係がかつて存在していたとしても、後述のとおり現在にあつては消滅に帰しているものと考えられる。しかも、相手方五名は、すべて独自の占有者であつて、決して相手方等が賃借人と称する前記の者等に従属乃至附随してこれらの建物を使用しているものではない。

(一) まず、相手方等は、相手方共進産業株式会社、同株式会社有本洋反物店及び同有限会社藤倉商店の実体が、前記賃借人等の主宰する個人企業であつて、税金負担軽減等の目的で法人を装つたものにすぎないから、独立の占有者ではないと主張する。しかし、これらの法人は、いずれも登記簿の記載どおり商法または有限会社法に準拠して設立された会社であつて、本件各建物に本店を置く独立の営業主体であるし、相手方等が事実上の企業主体であり本件各不動産の占有者であると称する個人は、いずれもこれらの会社から月給金二万円の支給を受けている取締役乃至は単なる従業員であつて、他の会社従業員等と同様、別個の場所に住居を構え、本件各建物に通勤しているにすぎぬ者である。そして、かりにこれらの会社の実体が相手方等主張のとおりであるとしても、前述のごとく登記簿上は通常の会社のように表示されているのであるから、相手方等が右仮装法人の事実をもつて第三者たる申立人に対抗することは、英法に淵源を発し、わが商法第十四条の基本精神ともなつている禁反言の原則上許されないと解すべきである。

(二) 次に、相手方等は、その主張事実を裏付けるため、本件各競落不動産にかかる中山清市と相手方有本恵美子、同藤本喜代子及び同共進産業株式会社との間の各売買契約は、いずれも本件強制競売手続が消滅することを停止条件として、これらの建物の所有権を各買主に移転する趣旨のものにすぎなかつたと強弁する。しかし、この主張が全く根拠に乏しいものであることは、(a)右売買契約の関係の間で、一旦競落許可決定が言い渡された後、その未確定の間に競落不動産を売買しても有効かどうかについて、事前に弁護士福本貞義の意見を聴いた上、それが有効であるとの確信を得た結果、取引に及んだものであること、(b)右売買に当つては、一棟の建物についてわざわざ三戸に分割登記手続を行い、かつ、買主三名から売買代金(一戸当り金九十五万円であるが、現実に支払う必要があるのは、これから賃貸借契約の際差し入れた敷金二十五万円を控除し、一戸当り金七十万円だけである。)の相当部分を占める合計金七十万円を、現金で支払つていること、(c)これらの建物につき、登記簿上では停止条件付売買を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記などはなく、通常の売買に基く所有権の移転として表示されているにすぎないこと、(d)前記各賃借人は、いずれも右各売買契約締結の日以降中山清市に賃料を支払つていないこと(相手方等は、右賃料支払債務が取立債務であるというが、そうではなくてやはり持参債務である。)などに徴し、明らかである。そして、かりに右売買が契約関係者間において相手方等主張どおりの趣旨、内容のものであつたとしても、前述のように登記簿上は通常の売買と表示されているにすぎないのであるから、相手方等が右停止条件附売買の事実をもつて第三者たる申立人に対抗することは、やはり禁反言の原則上許されないというべきである。

(三) かような次第で、中山清市と申立外有本義雄、同藤本茂及び同小川建治との間の賃貸関係が、右各売買契約締結後も存続しているというのは、いかにも無理な主張であるが、かりにこの点を譲るとしても、これらの賃貸借契約においては、いずれも存続期間を昭和三十一年四月末日までと定めているのであるから、既に右期間も過ぎ去つた現在、右各賃貸借関係が継続しているものということはできない。更に一歩を譲り、申立人の右主張が理由のないものとしても、本件の昭和三十一年七月二十四日午後二時の口頭弁論期日において、申立代理人が各引渡命令申立書を陳述したことにより、右各賃貸借の解約の申入をしたものであるから、借家法第三条第一項により、その後六箇月の経過と共に右解約の効果が発生し、相手方等は、その占有にかかる本件各建物を申立人に引き渡さねばならなくなる筈である。

二 次に、相手方等は、本件競落不動産に対する相手方五名の占有の開始が、いずれも転貸又は賃借権の譲渡に基くものであるとの前提に立つて、これらの者に対しその占有不動産の引渡を求めるには、申立人において民法第六百十二条第二項に基く解除の意思表示をしなければならず、また、右解除権発生の前提要件が具わつている必要があると主張するが、相手方五名の本件競落不動産に対する占有の開始は、転貸や賃借権の譲渡に基くものでないから、右主張は、既にこの点において理由がない。しかのみならず、賃貸人の承諾を得ないで転貸又は賃借権の譲渡が行われた場合、賃貸人が転借人や賃借権の譲受人に目的物の引渡を求めるために、もとの賃借人との間の契約を解除することは、理論上必要ではない。いずれにせよ、この点に関する相手方等の抗弁は、全く根拠のないものである。」

立証として、申立代理人は、甲第一号証、同第二乃至第五号証の各一、二、三、同第六号証、同第七号証の一乃至四を提出し、証人中山清市の証言を援用し、「乙第三、第四号証、同第五号証の一、同第六、第七号証の成立は、これを認め、なお、同第五号証の一及び同第六号証を利益に援用するが、その余の乙号各証の成立は、知らない。」と述べ、

相手方等代理人は、乙第一号証の一乃至四十一、同第二乃至第四号証、同第五号証の一、二、同第六及び第七号証を提出し、証人有本義雄、同藤本清澄及び同小川建治の各証言、並びに、相手方有限会社藤倉商店代表者藤本茂本人尋問の結果を援用し、「甲第一号証の原本の存在と成立、並びに、その余の甲号各証の成立は、すべてこれを認める。」と述べた。

理由

一  申立人が昭和三十年六月三十日、債権者島谷常次郎、債務者中山清市間の当裁判所昭和二十八年(ヌ)第八九号不動産強制競売事件において、同債務者所有の「神戸市兵庫区東山町一丁目六番の四地上、家屋番号五十二番、木造瓦葺二階建料理店一棟、建坪二十三坪八合一勺、外二階坪二十二坪一合二勺」につき競落許可決定を受けたこと、右債務者中山清市は昭和三十年七月一日これを不服として大阪高等裁判所に即時抗告を申し立てたが、昭和三十一年五月二日に至り右抗告を取り下げたため、同日をもつて前記競落許可決定が確定したこと、その後申立人が競落代金百万円を完納したことは、いずれも当事者間に争がない。

二  しかるところ、相手方等代理人は、本件競落不動産引渡命令申立の基本となつている前掲強制競売手続について停止事由があることを指摘した上、現段階において右申立を認容することは、法律上許されないと主張するのに対して、申立代理人は、右の事情が本件引渡命令申立の障碍とならぬ旨主張して争つているので、以下この点に関する当裁判所の見解を明らかにする。

記録によれば、債権者島谷常次郎の代理人弁護士淡路健治作成名義にかかる、昭和三十一年六月十九日附の「御届」と題し、同債権者において請求金額及び手続費用の弁済を受け終つた旨を記載した書面が、同月二十日執行裁判所たる当裁判所に提出されていることが明らかであり、また、これに引き続き、神戸地方裁判所昭和三十一年(モ)第七〇六号事件において同年六月二十九日、「前掲強制競売手続を異議訴訟事件の判決言渡まで停止する。」という趣旨の決定がなされ、かつ、右決定の正本が即日当裁判所に提出されていることも認められる。そして、右停止決定の正本が民事訴訟法第五百五十条第二号の書面にあたり、右「御届」と題する弁済証書が同条第四号の書面にあたることが明らかであるから、同法第五百五十一条によれば、執行裁判所たる当裁判所は、これらの書類を受理した以上、もはや前記強制競売手続を進行させてはならぬことは疑いない。申立人は、縷々理由を掲げて前示強制執行停止決定が違法であるというが、執行裁判所たる当裁判所としては、右停止決定の当否を審査した上競売手続を進行させるかどうかについて判断を左右にすることは、現行民事訴訟法が裁判機関と執行機関との分掌を明確に定めた立前からしてもとより許されず、同決定の正本が真正のものであると認める限り、形式的にその文言に従つて競売手続を停止しておく外はないのである。

ところで、相手方等代理人の主張するところは、競落不動産引渡命令に関する手続は、強制競売手続の一環として当然これに包含されるものであるとの前提に立ち、強制競売手続が停止されている限り引渡命令を発することは許されぬというにある。しかしながら、当裁判所は、右前提の考え方に賛しないものであつて、左にその理由を述べる。

そもそも、強制競売手続にあつて競落許可決定の確定をみれば、執行債務者と競落人との間に執行手続上売買関係が確定的に形成され、したがつて、当該競売手続が執行債務者以外の者の所有不動産につき開始したという格別の事情がない限り、競落人は、競落不動産の所有権を取得するのである(民事訴訟法第六百八十六条)。もちろん競売手続について取消又は停止事由があれば、それは、競落の不許可事由にはなるけれども(同法第六百七十二条第一号、第六百七十四条)、右事由も看過されて一旦競落許可決定が確定すれば、その場合の効果は、前述のとおりであつて、その後あらたに競売の取消又は停止事由が発生しても、改めて競落不許可を宣言することは、法律の予想するところでなく、いわんや右許可決定の効果が当然消滅する場合は、これを認めることができない。したがつて、競落人が債務者を被告として競落不動産の引渡請求訴訟を提起した場合を想定すると、かりに基本たる強制競売手続に取消又は停止事由が認められても、かような事情は、競落許可決定が確定し、かつ競落代金の全額が支払われている限り、もとより競落人の請求を排斥すべき抗弁とはならないのである。そして、競落人に対する不動産引渡命令の申立手続は、競落人が前示引渡訴訟を提起しないで簡易迅速にその競落不動産の占有を自己の手に収めることができるために、特に競売裁判所の管轄に属するものとして認められたものであつて、立法技術上強制競売の款に規定されてはいるけれども、金銭債権者をして競落代金からその債権の満足を得させることを目的とした本来の強制競売手続に包含されるものではなく、理論上これとは独立別個の手続と観念するのが相当であり、基本たる強制競売手続の進行過程とは無関係に進行すべき性格のものである点において、前掲競落人の提起にかかる通常の不動産引渡訴訟の手続と何等趣を異にしないのである。

従来の裁判例中には、不動産引渡命令が競売手続終了の方法として発せられるものであるといつた文言を用い、一見あたかも引渡命令に関する手続が競売手続の一環を形成するという、相手方等代理人の主張を裏付ける趣旨に解されるものが散見するけれども(大審院大正十年九月十九日決定・民録第二十七輯一五三九頁、東京高等裁判所昭和二十八年一月十九日決定・判例タイムス三一号七二頁等)、引渡命令が発せられその執行が行われても、配当未了で競売手続の終了しない場合があり、逆に、引渡命令の発布を見ないでも競売手続の終了を認めねばならぬ場合もあるから、その表現は、必ずしも適切なものとはいえないし、その意味するところは、要するに引渡命令は競売の後仕末のために認められた執行処分であるという以上に出ないものと解するを相当とする。したがつて、右文言を形式的に捉えて当裁判所の前示見解を攻撃するのは当らない。

また、相手方等代理人は、第三者が競売不動産の所有者であるとして第三者異議の訴を提起し、これに件う強制執行停止決定を得てその正本を執行裁判所に提出した場合を想定すると、競落許可決定が形式的に確定したからとて、競落人の申立により不動産引渡命令を発するのは不合理であると主張する。しかし、第三者異議の訴は、原告が強制執行の目的物につき譲渡若くは引渡を妨げる権利を主張して提起するものである(民事訴訟法第五百四十九条第一項)から、不動産競売手続についていうと、一旦競落許可決定が確定すれば、当該不動産にかかる異議の訴は、権利保護の利益が失われるわけであるし、かりに右訴の提起に伴い発せられた強制執行停止決定の正本が執行裁判所に提出されても、競落許可決定確定後にあつては、再競売手続が命ぜられておらぬ限り停止の対象となる何等の手続も残存していないのである。したがつて、この点に関する相手方等代理人の主張は、採用に値しない。

なお、記録によれば、当裁判所が申立人から競落代金を受け取つたのは、競売手続の停止事由が発生した後、すなわち、前掲弁済証書の提出の五日後にある昭和三十一年六月二十五日であることが認められ、相手方等代理人は、当裁判所のこの措置が違法であると非難する。そして、競落人の競落代金納付が、債権者等に対する配当資金、並びに、債務者に交付すべき余剰金の提供を主要目的とするものであること、競売手続に停止事由があれば、配当手続等を進行させてはならなぬことは、疑いない。しかしながら、一旦競落許可決定が確定すれば、債務者と競落人との間に売買関係が形成され、債務者以外の者の所有不動産が差し押えられたという格別の事情がない限り、競落人が競落不動産の所有権を取得すること、かような地位にある競落人の求める引渡命令申立手続が本来の意味における競売手続とは別個の手続と観念すべきものであることは、前述のとおりであるし、競落人が競落代金を納付することは、不動産引渡命令を求めるのに必要な前提要件を具えるための権利でもあるから(民事訴訟法第六百八十七条第一項)、執行裁判所は、たとえ競売手続について取消または停止事由があつても、代金支払期日を指定すべきであり、それまでになされた競落人の代金納付の受領を拒み得ないものと解するのが相当である。

なお、強制競売手続につき停止事由があれば不動産引渡命令を発することが許されないと解することによる実際上の結果も、甚だ不合理である。すなわち、競落人は、競買申出の際保証として申出価額の十分の一に当る金額を現金又は有価証券をもつて直ちに執行吏に預けているのであるが(民事訴訟法第六百六十四条)、競売手続につき停止事由が生じたからといつて、その返還を求めることは許されない。更に、競落代金の完納後において競売の停止事由が発生することも考えられるが、その場合でも競落人は、当然に右代金の返還を求めることはできないのである。しかも、競売の停止事由は、多くの場合もつぱら執行債権者と債務者との間の事情、時としてはこれらの者の間の馴合によつて形成され、数年の長きにわたつて継続することも稀ではないのであるから、この間競落人において自己の競落不動産の引渡命令を求めることが許されないとすれば、競落人の蒙る損害は決して少くないといわなければならない。かくのごときは、競売手続の停止と不動産引渡命令の許否との関係を考えるについて、明らかに無視することのできない事情である。

要するに、強制競売手続につき停止事由が発生すれば、もちろん配当期日を開くことなどは許されないけれども、競落人が不動産引渡命令を求める権利まで制約を受けることは、法の趣旨でないと解するのが相当である。この点に関する申立代理人の論旨は、前判示と説明の方法を異にするものであるが、本件不動産引渡命令の申立に手続上の障碍がないとする結論において、正当であるといわなければならない。

三  ところで、申立代理人は、前掲強制競売事件の債務者でない相手方五名に対して不動産引渡命令を求めているのであつて、その法律上の根拠を明示しないが、競落人は、自己の所有権に対抗し得ぬすべての不法占有者に対して不動産引渡命令を求め得るという前提に立脚するもののようである。しかるに、相手方等代理人は、不動産引渡命令を発し得べき相手方は、競売事件の債務者に限られるものであり、かりにしからずとするも、債務者及びその一定範囲内の占有承継人でなければならないと主張するので、以下この点に関する当裁判所の見解を明らかにする。

相手方等代理人が不動産引渡命令の相手方を債務者に限るべきものとする第一の根拠は、民事訴訟法第六百八十七条第三項の文言であるが、なるほど同条項には、管理人に対する引渡命令の相手方として単に「債務者」を掲げるに止まり、それ以外の占有者については明言するところがない。しかしながら、右規定は、債務者が競落不動産を占有している通常の場合について立言しているにすぎず、特に債務者以外の者を除外する趣旨ではないと解するを相当とする。(因みに、ドイツ強制競売及び強制管理に関する法律第九十三条第一項は、競落許可決定を債務名義として、競落物件の「占有者(Besitzer)」に対し退去及び引渡の強制執行をすることを認めており、特に「債務者(Schuldner )」という限定をしていない。)すなわち、競落不動産に対する差押の効力が発生し対抗要件を具えた後(以下単に「差押後」という。)において債務者からその占有を承継した者は、その承継が相続、会社の合併等の一般承継事由に基くか、売買、地上権設定、質権設定、賃貸借等の特定承継事由に基くかを問わず、すべてその権原の取得を競落人に対抗し得ぬ占有者であるといわねばならないから、これを相手方として不動産引渡命令を発することを認めても、理論上妨げないと解すべきである。

相手方等代理人は、執行事件の裁判手続にあつては証拠の提出を疎明に限るのが実務の取扱であり、また、不動産引渡命令に関する法条は、不動産の引渡を求める手続としては例外規定であるから、これを拡張解釈してはならぬと主張するが、右主張のような証拠調に関する実務の取扱がありとすれば、それは誤りであつて、証拠の提出を疎明とすべき場合は、原則として法文上明規されており、不動産引渡命令申立事件の手続は、右の場合にあたらないし、また、同手続が通常の判決手続より迅速性と簡易性を要求される点は、これを認めねばならぬとしても、引渡命令の相手方を前記の範囲に止める限り、さして右手続の特殊性に背馳するものとは考えられない。また、同代理人は、承継執行文の付与手続と対比することにより自己の主張を裏付けようと試みているが、執行裁判所は、債務者、並びに、その一定範囲内の承継人であることが「証明」(疎明ではない。)された相手方に対してのみ引渡命令を発すべきであると解する以上、右の対比論も、根拠甚だ薄弱である。

しかしながら、債務者、並びに、その差押後の一般または特定占有承継人以外の競落不動産の占有者、すなわち、差押前に債務者からその占有を承継した者とその承継人、並びに、債務者とは何等の承継関係に立たない占有者は、その占有開始の時期が差押の前であるか後であるかを問わず、また、実体法上その占有権限をもつて所有者たる競落人に対抗し得ると否とを問わず、すべて不動産引渡命令の相手方に親しまぬものであり、これに対しては、競落人において所有権に基く引渡請求訴訟を提起する外はないと解するを相当とする(大審院昭和十二年四月二十三日言渡判決・法学第六巻第九号登載参照)。右の理論が正しいことは、以下述べる場合を想定することにより自ら明瞭となるであろう。

民事訴訟法第六百八十六条又は競売法第二条第一項による競落人の所有権取得の理論構成については、異説もあるが、右は、債務者(任意競売の場合にあつては、「競売開始決定に不動産の所有者として表示された者」を意味する。)からの承継取得と解すべきであるから、債務者以外の者の所有不動産が誤つて競売に附された場合、競落人は、その競落不動産の所有権を取得するに由がない。同様のことは、債務名義なくして開始される任意競売手続が、その申立の原因たる先取特権や抵当権が全然存在せず、または、これらの担保権の附着しない不動産につき進行したときにもいえるのである。しかし、かような場合でも競売手続開始決定が当然無効であるとはいえないから、債務者がその差し押えられた占有不動産を処分しても、これによる占有承継をもつて債権者に対抗し得ぬわけであり、また、その後競落許可決定が確定すると、もとよりこれを無効ということはできないから、競落不動産につき債務者またはその差押後の一般承継人と競落人との間に一応形式的にせよ承継関係が競売手続上形成されることになる。したがつて、債務者、並びに、その差押後の一般または特定占有承継人は、あたかも他人の権利の売主がその権利を買主に移転する義務を負うように(大審院大正八年五月三日言渡判決・民録第二十五輯七二九頁以下登載参照)、その占有にかかる被差押不動産を競落人に引き渡さねばならぬと解することも、不動産引渡命令の制度を競売の附随手続として定められたものと見る限り、充分な合理的根拠があるということができる。しかし、それ以外の占有者は、すべて差押の効力を受けぬ者であるから、競落人が所有権を取得しなかつた場合、これに対し競落不動産を引き渡さねばならぬ理由は考えられない。かように、競落人が所有権を取得せぬ場合も発生することがあるから、その求め得べき不動産引渡命令の相手方の範囲を、前述の基準に従い差押の効力との関連において形式的に限定しなければならないことは、当然である。

右に述べた見解に反し、競落人は、自己の所有権に対抗し得ぬすべての不法占有者に対して不動産引渡命令を求め得ると解する説がある。そして、この見解が、競落人の権利取得につき原始取得説をとり、任意競売手続にあつても前段掲記のような競落人が所有権を取得せぬ場合のあることを否定する前提に立つものであれば、それ自体必ずしも不合理ではない。しかしながら、右と異なる前提をとりながら右の見解に従うならば、不動産引渡命令の申立の当否を審査する裁判所において、競落人がはたして当該不動産の所有権を取得したかどうかを認定するため、債務者以外の者の所有不動産を差し押えていないか、任意競売申立の原因たる先取特権や抵当権が存在しないままに競売手続が進行していないかなどの点まで、取り調べる必要があるとせねば、相手方に不測の損害を与える虞があろう。しかし、かかる審理は、競落許可決定確定後の不動産引渡命令申立の許否を審査する手続段階にあつては、許されないと解するのが相当であるし、実際上も、不誠実な相手方が、みだりに引渡命令を不服として執行の方法に関する異議や即時抗告を申し立て、故なく競落人の所有権を争うことにより引渡義務履行の遷延を図る口実を提供するもので、競落人の利益を害することが甚だしい。それ故、競落人の所有権に対抗し得ぬ不法占有者のすべてにまで不動産引渡命令の相手方の範囲を拡張する考え方には、にわかに賛同するを得ないのである。

四  よつて、以上の基準に照らし、本件の相手方五名に対し申立人の求める競落不動産引渡命令を発することが許されるかどうかについて、判断を進めることとする。

申立人が競落した建物については、債務者中山清市において昭和三十年八月十六日附で別紙目録表示のとおり(1) 乃至(3) の三戸に分割登記手続をし、かつ、同債務者から申立人主張の受附日附をもつて右(1) の建物については相手方有本恵美子に、(2) の建物については同藤本喜代子に、(3) の建物については同共進産業株式会社に、それぞれ同年八月二日の売買を原因とする所有権移転登記(これらの登記が真実の権利関係の変動を表示したものかどうかの点は、後に述べる。)がなされていること、そして、相手方有本恵美子及び同藤本喜代子が、現に右各自の所有名義建物の階下部分に出入しており、また、相手方共進産業株式会社がその所有名義にかかる(3) の建物、同株式会社有本洋反物店が(1) の建物、同有限会社藤倉商店が(2) の建物の各階下部分をそれぞれの営業店舗としていることは、当事者間に争がない。

しかるところ本件にあつては、そもそも相手方五名が申立人の競落不動産につき独立の占有者たる地位にあるかどうかが争われているのであるが、相手方有本恵美子及び同藤本喜代子とその余の相手方三会社とでは、甚だしくこの点に関する事情を異にしているから、便宜まず相手方三会社についてその占有の有無を考えることとしよう。

成立につき争のない甲第五号証の二、乙第五号証の一、同第六号証、証人有本義雄、同藤本清澄及び同小川建治の各証言、並びに、相手方有限会社藤倉商店代表者藤本茂本人尋問の結果を綜合すれば、相手方三会社の実態は、おおむね次のようなものであることが認められる。すなわち、相手方共進産業株式会社は、昭和二十九年四月二十七日の設立にかかり、当初他所で営業していたが、昭和三十年七月五日本店を右(3) の建物に移転し、その頃から右建物の階下部分をゴム靴販売の店舗としているものであり、相手方株式会社有本洋反物店は、同年五月十二日の設立にかかり、同日以降右(1) の建物の階下部分を洋反物販売の店舗としているものであり、また、相手方有限会社藤倉商店は、昭和三十一年四月二十三日の設立にかかり、同日以降右(2) の建物の階下部分を同じく洋反物販売の店舗としているものであるが、これら三会社に共通の特徴として、いずれも個人企業を前身としていたところ、それでは税金の負担が重かつたり営業資金を確保するのに不便であるというので、会社組織に切り替えたものにすぎず、その法律上の性格が変容した点は別として、現実の業務形態に関する限り設立前の個人企業時代と殆ど差異のない点があげられる。これをいま少し具体的にいうと、株主や社員達に利益の配当などはしたことがなく、設立登記手続に必要であるというので一応形式的に名を連ねている取締や監査役は、おおむね会社の営業には無関心で、自己が役員であることを知らぬ者すらおり、会社から報酬も支払われておらず、会社の運営は、個人企業時代と同様相手方共進産業株式会社については小川建治等、同株式会社有本洋反物店については有本義雄、同有限会社藤倉商店については藤本茂が、もつぱら自分達の個人的利潤の追求を目的として家人等(この中には有本義雄の妻である相手方有本恵美子と藤本茂の妻である相手方藤本喜代子も含まれている。)、並びに、その他の少数の従業員を使役してこれに当つているのである。しかしながら、これらすべての事実関係を綜合しても、右(1) 乃至(3) の各建物の階下部分が、それぞれ有本義雄、藤本茂及び小川建治等個人の占有にかかるもので、相手方三会社は、これに対し従属的関係に立ち独立の占有者でないとする相手方等代理人の主張をそのまま認容することは、些か早計に過ぎるものであるし、更に、これら店舗の商品仕入、販売その他の対外取引や営業関係の納税は、すべて会社の名において行われており、前記各個人等の名を表面に出していないことも、前掲各証言や相手方代表者本人尋問の結果により明瞭である。したがつて、やはり相手方三会社が独立の企業主体としてそれぞれの店舗を占有するものであり、有本義雄は、相手方株式会社有本洋反物店の設立の時から、藤本茂は、相手方有限会社藤倉商店の設立の時から、小川建治等は、相手方共進産業株式会社が本店を別紙目録(3) の建物の階下に移した時から、申立人の競落不動産につき独立の占有者たる地位から脱落し、むしろ各自が関係する会社の占有の機関となつて今日に至つているにすぎないと認める方が合理的である(最高裁判所昭和三二年二月二二日言渡判決・判例時報第一〇三号一九頁以下登載、同裁判所同年同月二五日言渡判決・同誌第一〇四号一八頁登載各参照)。

しかし右認定事実によると、相手方有本恵美子及び同藤本喜代子は、それぞれ相手方株式会社有本洋反物店及び同有限会社藤倉商店を企業主体とする店舗の従業員にすぎないから、少くとも別紙目録表示(1) 及び(2) の建物の各階下部分につき独立の自己占有者(直接占有者)たる地位にないことが明らかである。ところが前にも述べたとおり、右(1) の建物については相手方有本恵美子のため、(2) の建物については同藤本喜代子のためそれぞれ昭和三十年八月十八日受附をもつて、中山清市との間の同月二日の売買を原因とする所有権取得登記がなされているのであるから、これらの登記が真実の権利関係の変動を表示しているものとすると、右相手方両名は、前記相手方二会社を占有代理人として(1) 及び(2) の建物の各階下部分をそれぞれ代理占有(間接占有)していると認むべき余地がある。不動産引渡命令の相手方が競落不動産の自己占有者に限られ、代理占有者であつてはならぬと解すべき法律上の根拠はない(民事訴訟法第七百三十二条参照)。

しかるに、右相手方有本恵美子及び同藤本喜代子の各所有権取得登記、並びに、別紙目録表示(3) の建物に関し相手方共進産業株式会社のため昭和三十年八月二十五日受附をもつて、やはり中山清市との間の同月二日の売買を原因としてなされた所有権取得登記については、真実の権利関係の変動を表示したものかどうかが当事者間に争われている。すなわち、相手方等代理人は、中山清市とこれら相手方三名の間には、本件不動産引渡命令申立の基礎となつている前掲強制競売手続が取下又は取消になることを停止条件とする売買の予約が締結されたにすぎず、しかも右条件は、未だ成就していないと主張し、申立代理人は、この主張を全面的に争つているのである。よつて、以下この点につき判断する。

原本の存在及び成立につき争のない甲第一号証、同じく成立につき争のない同第五号証の二、第七号証の一乃至四、乙第三、第四及び第七号証、証人有本義雄の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一乃至四十一、同第二号証、証人有本義雄、同小川建治及び同中山清市の各証言、相手方有限会社藤倉商店代表者藤本茂本人尋問の結果、その他記録にあらわれた前掲強制競売事件の進行過程を綜合すれば、(a)別紙目録表示(1) の建物については中山清市と有本義雄の間に、同(2) の建物については右中山と藤本茂の間に、同(3) の建物については右中山と小川建治との間に、前示強制競売手続の開始前から各階下につき賃貸借関係が存在し、有本義雄及び藤本茂は、それぞれ洋反物販売の店舗を、小川建治は、ゴム靴販売の店舗を構えていたこと、(b)その後右(3) の建物の階下部分については、前述のとおり相手方共進産業株式会社の本店が昭和三十年七月五日ここに移され、小川建治等の個人企業が同会社のそれに切り替えられ、貸主の中山清市も同会社の取締役に就任するに及び、同会社が右貸主の承諾を得て小川建治の賃借権を譲り受けたこと、(c)ところで右中山清市は、前掲強制競売事件において債権者島谷常次郎の申立により自己の所有にかかる前記各建物が競売に附され、遂に昭和三十年六月三十日、本件申立人がこれにつき最高価金百万円の競買申出により競落許可決定の言渡を受けるに及び、とりあえず司法書士竹中重治に書類作成を依頼し、右許可決定を不服として大阪高等裁判所に抗告を提起し、更に、同司法書士から紹介して貰つた弁護士福本貞義に事件を依頼すると共に、同弁護士から、差押中の建物の売買も有効で、競売申立が取り下げられると完全にその目的を達するという法律上の意見を徴した上、右抗告審係属中に前記競売申立債権者に対する債務金七十万円を弁済することによりその競売申立を取り下げて貰い、右競落許可決定の取消を得ようと企てたこと、(d)よつて、同年八月、右弁済資金の調達を有本義雄、藤本茂及び小川建治に懇願すると共に、同人等乃至その関係会社に対し各自の賃借建物を売り渡したい旨申し入れたところ、同人等は、当初差押中の家屋を買い受けても安全かどうかについて若干危惧の念を抱いていたが、右竹中司法書士からかかる売買も有効で心配は無用であると聞かされるに及び、右中山の申入を諒とし、有本義雄は、その妻相手方有本恵美子を代理して別紙目録表示(1) の建物を、藤本茂は、その妻相手方藤本喜代子を代理して同(2) の建物を、小川建治は、その関係する相手方共進産業株式会社を代理して同(3) の建物を、各本人の名において各戸当り代金九十五万円で買い受けることとし、とりあえず右代理人三名が共同して、中山が弁済供託するのに必要な金七十万円を右買受代金の一部として拠出すると共に、右各建物について前示のとおりの売買を原因とする所有権移転登記がなされたことが認められる。そして、右売買乃至これに基く所有権移転の効果発生を特に競売手続の取下又は取消にかからせる趣旨の約定が、明示的にせよ黙示的にせよ右関係人等の間になされた事実は、これを証すべき資料がないのみならず、かえつて前掲乙第一号証の一乃至四十一、同第二号証、並びに、証人有本義雄、同小川建治及び相手方有限会社藤倉商店代表者本人の各供述によれば、前記各所有権移転登記を了した後は、有本義雄、藤本茂及び相手方共進産業株式会社において中山清市に対し全然賃料を支払つておらず、これらの者の間に賃貸借契約がなお存続しているという意識は、全くなくなつていることが認められる。したがつて、やはり中山清市と相手方有本恵美子、同藤本喜代子及び同共進産業株式会社との間にあつては、登記簿上の表示どおり真実に売買契約が締結され、かつ、遅くとも右登記完了の時までに所有権を移転させる趣旨であつたと解するのが、当事者の意思に合致するゆえんであり、また、右売買の成立乃至所有権の移転と同時に、中山清市と有本義雄、藤本茂及び相手方共進産業株式会社との間に従来存していた賃貸借関係も、消滅に帰したものといわなければならない。

そこで、以上の認定事実を綜合すると、相手方有本恵美子が昭和三十年八月二日別紙目録表示(1) の建物を買い受け、その所有権を取得すると共に、その階下部分について、数箇月前からここを洋反物店として自己占有していた相手方株式会社有本洋反物店との間に使用貸借関係が成立し、今日に至つていると認めるのが相当であり、したがつて、相手方有本恵美子は、右会社を占有代理人とする前記建物の階下部分の代理占有者であるといわなければならない。また、相手方藤本喜代子が同年月日別紙目録表示(2) の建物を買い受けその所有権を取得すると共に、その階下部分につき、従前からここを洋反物店として自己占有していた夫の藤本茂との間に使用貸借関係が成立したというべきであるが、その後昭和三十一月四月二十三日相手方有限会社藤倉商店が設立された時から、藤本茂が占有者でなくなり、右会社がこれに替るに及び、同会社との間に使用貸借関係の成立を見て今日に至つていると認められるから、相手方藤本喜代子は、右(2) の建物の所有権を取得すると共に、その階下部分につき夫を占有代理人とする代理占有者となつたが、その後右占有代理人が右会社に変更して現在に至つていると解するのが相当である。それ故、相手方有本恵美子及び同藤本喜代子が独立の占有者でないから、不動産引渡命令の相手方に親しまないとする相手方等代理人の主張も、結局理由がないことに帰着する。

よつて、以上説明したところを要約すると、相手方有本恵美子は、別紙目録表示(1) の建物中階下部分を、相手方藤本喜代子は、同表示(2) の建物中階下部分を、相手方共進産業株式会社は、同表示(3) の建物中階下部分を、いずれも本件不動産引渡命令申立の基礎となつている前掲強制競売事件の執行債務者中山清市から昭和三十年八月二日買い受け、その所有権(その所有権が申立人に対抗することができるものかどうかは、ここで考える必要はない。)を取得することにより、その占有を承継したものであり、また、相手方株式会社有本洋反物店は、相手方有本恵美子が右(1) の建物の所有者となつた当初より同相手方からその階下部分につき、相手方有限会社藤倉商店は、昭和三十一年四月二十三日設立と同時に相手方藤本喜代子から右(2) の建物の階下部分につき、それぞれ使用貸借を原因として占有を承継したものということになる。そして、記録によると、前掲強制競売事件にあつては、昭和二十八年八月二十五日これらの各建物につき競売手続開始決定があり、その差押が宣言され、引き続き同月二十七日競売申立登記を経由し、かつ、同年九月二日右決定が債務者の中山清市に送達されていることが認められるから、相手方五名の前記占有承継は、すべて右各建物に対する差押の効力が発生し、その対抗要件を具えた後にかかるものといわなければならない。

してみれば、相手方五名に対し各自の占有建物につき引渡命令を求める本件申立は、その余の争点に対する判断をまつまでもなく理由があるものというべきであるから、これを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 前田治一郎 吉井参也 戸根住夫)

目録

神戸市兵庫区東山町一丁目六番の四地上

(1)  家屋番号・五十二番の六

木造瓦葺二階建店舗一棟(建坪・七坪九合四勺、二階坪・七坪三合八勺)

(2)  家屋番号・五十二番の七

木造瓦葺二階建店舗一棟(建坪・七坪九合四勺、二階坪・七坪三合七勺)

(3)  家屋番号・五十二番

木造瓦葺二階建店舗一棟(建坪・七坪九合三勺、二階坪・七坪三合七勺)

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